「ユーリ・・?」

きゅっと握られた手に俺の可愛い婚約者は不思議そうな顔をした。

知ってるんだ。

お前に思いを寄せてる奴が向こうにいることも。

「・・・ゆーり?」

鈍感なこいつはそんなことにも気づいてないんだろうけど。

「行くな・・・。行くなよヴォルフ・・・。」

そう言って抱きしめたらお前はここに留まってくれるだろうか___?



[その手を握りしめたのは



 誰にも渡したくなかったからで。]

















「やるよ?お前に。」

そう言われた途端、僕は持っていた紙コップを握り潰しそうになった。

「あー何?お前゛ああいうの゛が好みなの?でも、どんなに可愛いくてもアイツ男だぜ?」

信じられない言葉を坦々と続ける彼は、もはや昔の彼なのか…。

「あ〜そういやお前、昔眞王とデキてたって噂ホント」



ダンッ!!



「渋谷っっ!!」

奮えが、動悸が納まらない。

「……っ…君はっ」

掴んだ両手がガタガタと奮えた。



「放せよ。村田。」



乱暴に振り払われ、距離を取られる。

一睨みすると去っていく背中。



____ねえ?



本当に奪ったら怒るのは君だろう……?



『やるよ、お前に。』



_____



ユーリはやる気なんてありません。

















僕が眠っているとそっと近付いて髪を撫でてくる。
優しい手つき
いつもいつも壊れ物でも扱うように
そっと触れてくる。
髪に額に頬に唇が落とされた。 知ってるんだ。
ユーリがこうして寝てる時だけ触れてくることも。
ユーリは僕が気付いてないと思ってるから

だから僕はまた、寝た振りをする。

気づかれてはいけない。
ユーリが気づいてしまったら
二度と僕にはこうして触れてきてくれないような気がして・・・。

触れては彷徨っていた手が離れてく手に何度自分の腕を伸ばしかけただろう。


[僕がその手を握れなかったのは気持ちが溢れてたから。]


_______


ユーリは握れる。三男は握れない。

















「ユーリ・・?」

「あ、うん・・。そんな顔すんなって。またすぐ戻って来るからさ。」

「・・・・。そう言ってお前はいつも何ヶ月も国を空けるじゃないか。」

「俺の意思で来れる訳じゃないんだからしょうがないだろ?」

「・・・・。」

「ほら、放せよ・・。」

そう言って、俺は、俺の服の裾を掴んでるヴォルフの腕を剥がさせた。

「・・・・っ・・。」

ヴォルフは何か言おうとして口を閉ざす。

我慢しないで言えばいいんだ。

俺はそのままヴォルフに背を向ける。

水が奇妙に流れる渦にそっと手を伸ばした。

知ってるんだ、アイツが俺がいない間、この部屋で泣いてることも。

いつも泣きそうな顔で俺の背を見つめてることも。

いっそ・・・。



『泣いたらいいのに、なんて。』

________________

















「    ねえ 寂しいでしょ? 


      苦しいでしょ? 


      大丈夫。  


    僕ならそんな思いさせない。


     おいで


       慰めてあげる。」





そんな村プが書きたかったはずなんだけどな。

ユーリに冷たくされて落ち込んでる三男にそっと手を指し述べる村田…。

けど三男はユーリが好き。どんなに邪険にされてもユーリが好き。

















______________


「・・・ふぁ・・・っ。」

「・・・・・。」

「・・・ユ、ユーリ・・・もうっ・・。」

「・・・・ダメだよ。」

「・・・っ・・・!」

「・・・・・。」



「あ・・・やぁっ・・・もうっ・・!」

ヴォルフが俺の下で喘ぐ。

胸の突起をいじられて両腕もベットの端に固定された状態で。
泣きながら俺に祈願するんだ。

もう許して、どこにも行かないから。貴方の傍にいるから。

そんな言葉俺にはどうだっていい。聞いちゃいない、聞こえない、聞こえない、聞こえないんだ。

「・・・なあ?ヴォルフ。お前・・・。昼間どこ行ってた・・?」

「ひっ・・つ・・・・・ぅ・・!」

そのままグリグリと強めに刺激してやれば天使のように綺麗な顔が歪められる。

「なあ・・?どこ行ってた・・?」

聞いても腕の中の天使は答えない。答えられない。

俺の愛無に綺麗なその瞳からポロポロと涙が漏れるんだ。

許して、許して、許して、



その瞳はそう訴えている。

何したの?何があったの?







したっていうの・・・??



「あっ・・くっ・・どこ・・・にも・・っ」

お前は何にもわかっちゃいない。

俺がどんなにお前に惹かれてるか。



どれほど恋焦がれたか。



どれほど・・・・愛しいと思うようになったか。



「ぁっ・・・ぅーり・・ユーリ・・っ!」



キレイ________。

すっごく綺麗だ。

俺はこんな奴今までみたことない。

わがままで、口うるさくて、すっげー可愛くて、まっすぐで。

俺のこといつも追いかけてくる。

いつの間にか_____俺の方が手放せなくなった。

いつからこんなに愛しくなった?

好きだと思った・・?

俺の腕の中で泣くこいつを見てると。

ああ、これは俺のなんだ。

俺の物なんだ。

って思えてくる。

_____ヤバイ。俺って末期。

誰がこんな未来望んだ?

想像できた?

おかしいよな・・・?こいつ、男なんだぜ・・?

なんでなんで・・・なんで

こんなに可愛いんだよ。

俺、好きになってんだよ。

おかしいな、ヴォルフが俺から離れてくかも、って思った瞬間から。

俺もおかしくなったんだ。



誰がこんな風にした??

こいつが・・・・?

俺は・・?

こいつはもともと嫌ってたはずだ。

いつから惹かれてた?いつから追いかけてくれてた?

ああ、やっぱり。

俺がおかしくなったのか。

そっか・・・。

ならお前のせいじゃん。

俺がこんなになったのは

お前なしじゃいられなくなったのは

お前のせいじゃんか。

「・・・っ・・・ユーリ、ゆーり、ユーリっっ!!」



「・・・・・・。」



「・・してる・・っ。・・・ユーリっ・・あいっ」



なんでなんで・・・なんで


「好き・・っ好きなんだ・・っ。ユーリのことが・・。あい・・してる・・っ。・・・ユーリっ・・あいしてるんだっ」


ヴォルフ。


もう俺、おかしくなりそうだ。


本当に、


もう


戻れない。


「俺も、・・・・愛してるよ。」


________________________


【泣いても駄目だよ】

















【HOPE】


「ねえ?聞いた?陛下とのお見合い記念パーティー。」

「ええ、何でも申し込めば誰でも参加できるとか。」



そんな会話が廊下を素通りした時に聞こえてきた。


うそだ。   まさか。   そんなことあるはずがない。


動かない頭で何度尋ねてみても身体はけして言うことを聞かなかった。

「どういうことだ・・!?」

「え・・?あ、あ、あ、の閣下はご存知ないので?」

ひそっともう一人が女の耳元で話す。「ほら、まだ閣下とは婚約破棄されてないし・・。」「ああそうね・・」

「・・・っ・・!!」

彼女達は僕には聞こえてないと思ったのだろう。
だが、ユーリのこととなると全部聞き取ってしまう自分が心底憎たらしい。

「あ、閣下!!」

後ろで呼び止める声が聞こえた気がしたが、そんな言葉今の僕には聞こえない。

怒り、困惑、痛み。

そんなことが渦巻く中

足は真っ先に向かった。


彼が、この話題の著本人のいるとこへ。


「どういうことだ・・!?ユーリ!!」


バンッ!!と今まで一番強く扉を開けたかもしれない。

いつもなら、ここ、執務室でこんなことできないけれど、

ユーリだけじゃない、兄上だってギュンターだっているのだ。

お咎め受けるのは僕なのだ。

しかし今はそんなこと気にしてなどいられなかった。


嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

頭の中で何度も繰り返す。

なんだー。お前もだまされたのかー。ヴォルフー。


そういう、彼の笑顔で全てが冗談だと安心させてくれるものだと思った。



だが・・・。


「ああーー。聞いちゃったの・・?そっかー。ま、時間の問題だとは思ってたけど・・。」


「・・・っ!!」


「誰に聞いたの?グエン?コンラッド?・・ああ、違うか・・。それとも」

いつものように、少し困った表情で和やかにそんなことを返す。

震える拳が、込み上げる思いがぐちゃぐちゃに脳内を掻き毟った。


嘘だ・・・うそだ・・。


「・・・説明しろ・・。」


「・・・え?」


「どういうわけか説明しろっっ!!!」


叫ぶように吐き出された声は裏返った。

泣いてる、と勘違いされたかもしれない。

実質涙は出てなくても胸ははちきれそうに痛かったのに・・。


「・・・・・。」


ユーリは何も答えない。


周りのコンラート達でさえ、何も言わずなりゆきを見守っているだけだ。


どういうことだ!?


知らされていなかったのは僕だけだったということか


何故何も答えない


何故何も相談しなかった。


仮にも・・・婚約者であるこの僕に・・っ!!


仮・・・・。


溢れ出す言葉は山のようにあるのに
それは全て、なっとくのできない、認めたくない僕からの疑問の言葉ばかり。


「そりゃあ、いつまでも男のお前と婚約ごっこなんて続けてなんかいられないだろ?」


分かっていた、ことじゃないか。


「まあ、今まではいい虫除けって言うか、下手な見合い話も遠縁させることができたし・・。」


ユーリは自分をなんとも思っていないことなど。


男同士は嫌だと、散々聞かされてきたのだ。


何を今さら・・・。


「お前と結婚なんてできるわけねえじゃん。」


「・・・っ!!・・だったら・・だったら婚約破棄でも、部屋から追い出すなり何でもできたはずだろう!?」

そうだ、そうしなかったのは彼なのだ。

けして嫌っているわけではない、ならばいつか好いてくれるかもしれない

そう自分に期待させたのは他でもないお前じゃないか


「追い出したじゃん。何度も追い出したのに、潜り込んで来たのはそっちだろ?」


冷ややかな視線で返される。

冷たい眼。

けして彼にこんな風にみつめられることなど今までになかったというのに。


「・・・っ。」


ダメだった。


もうダメだった。


込み上げる嗚咽に震える唇に、手を持っていきそうになるのを耐えるのがやっとだった。


いたくない、いたくない、こんな場所。


ユーリが嫌悪を示す視線で自分を見ているなど。

「大体、お前に言ったところで納得なんてしたのかよ?どうせいつもみたいに喚き散らして反対したくせに。」


笑いながら吐き捨てられる。

そんなに自分は彼にとって負担でしかなかったのだろうか

こんなにも嫌われるまで今の今まで気づかなかった自分は、どれほど愚かだったことだろう。


「・・・もう・・・・いい・・。」

僕の唇から聞き取れないくらいの、か細い声が漏れる。


もういい。もう、もうやめてくれ。


崩れてく。


今まで見ていたものは全て夢だったと。

自分の希望でしかなかったのだと、


綺麗に積み上げられていたものが、崩される。


強く、思い知らされた。








我ながら・・・よく・・耐えたと思う。


式は転々と行われ、ゆー・・陛下は色んな女性と言葉を交わし、そしてその手を取った。

目の前で穏やかに踊る光景に周り観客から時折笑みや拍手が漏れる。


ああ、自分は何を見ているのだろう。

本来ならば彼の隣に立っていたのは、他でもない自分のはずなのに。


否、


以前のままの関係だったとしてもけして彼は自分の手を取らなかった。

待っていた。ずっと待っていた。

いつか自分の元へ誘いに来てくれるのを。

この手を取ってくれることを。





大好きな彼の、


ユーリの側にいられるだけで自分は幸せだったのだ。

ユーリが無事眞魔国に戻ってきて、

怪我もなく、平穏な一日を過ごせれば、そのご加護に眞王陛下にいつも感謝した。

あちらでの滞在期間が長ければどれほど心配したことか

空いた時間を見つけては眞王廟に足を運び、いつも祈りを捧げた。

どうか、ユーリが無事でありますように___。





どれほど・・・想いを寄せていたというのだろう。


好きだったというのだろう。





もう、戻れない。





________________





「・・・ヴォルフ・・?」


泣いてる。


そう思ったのは隣から聞こえる小さな呼吸に嗚咽が混じってるのを感じたから。


身を起こし顔を覗き込む。


天使のような可愛らしい顔からは止め処なく涙が溢れていた。


「おい、どうし・・。」


伸ばしかけた手が一瞬止まる。


綺麗だった。月の光に照らされ、透明な雫が流れる様はどんな絵画で見た天使よりよっぽど。

この光が彼を迎えに来た天界の光だと、こんなに綺麗なこいつを見てるとそんなことさえ信じられるような気さえした。


「・・・・・。」


いったい、どんな夢を見てると言うのだろう。

手を伸ばし、頬を流れる雫をそっと掬ってやる。


それでも一向に涙は止まらなかった。

あとからあとから溢れ出してくる。


「・・・・り・__・・ーり。」


ああ、また彼は自分の夢を見ているというのか。


「・・−リ。」


けれど、自分はまだそれには答えない、答えられない。


彼を待たせ続けてる自分は、謝らなければならいのか。

それともこのままずっと待たせ続けるつもりなのか。

そんなの自分でも分からなかった。


けれど、


「・・・・−リ・・。」


光を遮るように自分の身体で覆い隠す。

これは、俺のだ。

俺に堕ちて来た天使なのだと。


静かに声を発するその唇を、そっと己のそれで塞いだ。


誰にも渡さない。








__________


HOPEは望み。




















「ん・・・もう、む・・り・・ぁっ・。」


「なんで、もう少しだろ?」


「や・・・も・・ぅ・・。」


「・・・ほら、もっと足開けって。」


「・・っ・・ぅ・・。」


いや、べつにエロいことしてるわけじゃないんだけど・・。

こいつが天性の魔性の持ち主なだけで。

「僕がストレーッチーとやらに付き合ってやる!」って言い出したのはこいつなわけで。


今は、二人揃ってベットの上で寝巻きのまま柔軟体操ってわけだ。


「ほら、あとちょっとだろ?がんばれよ。」

今は開脚してるこいつを俺が後ろから背中を押してあげてる状態。


「・・んっ・・もう無理・・だっ。・・ぃ・・た・・。」

「・・・・・。」

「・・っ・・ゆぅーりぃー・・っ。」

目潤ませながら背中越しに訴えてくる。


まったく・・。これで本人は無自覚の天然でやってるんだから、たちが悪い。


「はあ、お前、可愛すぎ。」

「・・は?・・なに・・っ・・。」

するっと背中から腰に腕を回す。そのままきゅっと力を入れてみた。


細い腰。 俺の腕が簡単に前で交差できてしまう。

「・・・柔軟より、もっといいこと、したいんだけど・・。」

目の前にある蜂蜜色の髪をかきわけ耳をそっと甘噛みする。

ぴくん、と反応する身体。


かわいい。


「・・っ・・え・・?」

分かってないこいつを、そのまま抱え込みベットになだれ込むように横になった。


「・・ゆーり・・?」

後ろから足を絡ませ、腰にまわした手はそのままに隙間なく密着する。

「・・ね、これの責任とってよ。」

「・・・っ!」

ヴォルフにも分かるように、もう反応してた息子を服越しに宛がう。

「・・ユーリは・・っ朝から破廉恥だ・・・っ。」

「お前のせいだって。」


「な・・・!ぼ、ぼくは健全だ・・!」

「そうかなーー?柔軟しててあんなに色っぽいのお前くらいだろうけど。」

「そ、そそんなことないじゃり・・!だ、だいたいおおまえが・・!」


「はいはい。」


いつまでも言い合ってもラチがあかない。

その口を俺ので無理やり塞ぐ。


「っ・・・ん・・ふっ。」


******


「だ・・・め・・から・・な・・。」


「は・・?」


情事後。

気だるげな身体をうつ伏せのままベットに沈んだ状態で呟かれた言葉。

シーツを腰だけにかけてる状態は大変色っぽい。


「ユーリが、ストレッチー・・をする、相手は、僕だけなんだから・・な。」

他の誰ともしてはダメだぞ。

お前は浮気もので尻軽だからな!

こ、ここんな誰かと密着してやる、体操?などを他の男となど・・・!


「・・・・・・。」

(ぶつぶつと何を言い出すかと、思えば。)

「しねーよ。お前と以外なんか。」

するわけねえじゃん。

というか、密着して背中押し合うストレッチであそこまで色っぽくなっちゃうこいつの方がよっぽど心配だ。

「お前こそ、俺以外の奴なんかとするんじゃねーぞ。」

「な・・・!ぼ、ぼくがそんな尻軽な行為を・・!するわけがないだろう!」

「どうだか・・?」

「む・・!ユーリと違って僕はお前一筋なんだ!」


「俺がお前以外に目向けたことあるかよ。」

「いつもじゃないか、僕の目の前だったり。あ!もしかして僕がいないとこでもこっそり浮気を・・!」

「してねーって。」


ったく。この嫉妬深い婚約者は。
まあ、そこも可愛いんだけど。


独占欲強いのは、俺も同じだって。

そろそろ本気で分からせねーと。

お前は俺だけだって。


可愛くて、手のかかる俺の婚約者に

キスの雨を降らせるために

俺は再び、近づいた。

________________ 【可愛いにもほどがある。】

あいかわらず、余裕陛下。

でも実は余裕なんてない。ヴォルフが可愛すぎてニヘラしそうなのを必死にこらえてこれ。

















「ああ〜〜ヴォルフー。ヴォルフー。」

「陛下・・・そろそろ手を進めてくださらないと。」


「あーもう。ダメ・・・限界。・・ギュンター。ヴォルフ連れて来て。ヴォルフー。」


「ですから、ヴォルフラムは今遠征に行っていて、早くても今夜か明日になるかと。」

「はあ!?明日ぅう!?・・・無理・・!ムリ!ヴォルフーーー!!」


ダン!!と執務室に不向きな音が響く。
グェンが机に腕を叩きつけた。


あー。あれグェンの方が痛くね?

俺は机に突っ伏したまま、グエンに視線を向ける。

「・・・・ヴォルフラムには白鳩便を出しておいた。お前の戻りを知ったらすぐにでも戻るだろう。」

「・・・ホント!?」
ばっと身体を引き起こす。
「ああ、だから・・。そのあとくっつくなり、ひっつくなり好きにしろ。・・・だが!今執務を放棄するようなら
 断じて認めん・・!文句は魔王の執務を全うしてからにしろ!」

「おうよ・・!」


グエンの怒りにもまったく動じない。もうこんなの慣れっこだ。
それよりヴォルフに会える。会えるーーー!!
俺を拳を握り締めてぐーっと伸びをした。





***********


「ユーリ!帰ってたのか!?」

「ヴォルフ!」


魔王部屋でヴォルフの帰るのを今か今かと待っていた俺は
期待通りの明るい声に飛び起きた。


「ヴォルフ!会いたかったー。」
そう言ってぎゅーっと隙間なく抱きしめると戸惑いがちにヴォルフも腕を回してくる。
上から顔を覗き込めば、顔を赤くしながら嬉しそうに、それこそ天使にも負けない笑みで微笑んでいた。


はっきり言ってめちゃくちゃ可愛い。
ヴォルフは俺の抱擁に未だに慣れていないのか
恥じらいながらきゅっとしがみついてくるんだ。


「そ、そうだ。今日はユーリに土産があるんだ。」
「へ?・・土産?」


「ああ実は、もうすぐ地球でのバレ・・タイン・・・?だろ?
 カーベル地方でいいカカオを貰ったんだ。せっかくなのでこれで何かユーリに。」


そう言ってヴォルフが取り出したのはカカオ豆だ。
原料っていうかチョコになる前って始めて見たかも。こんなんからどうやってあのチョコレートになっていくのかは
不明だが、ここのメイドさん達にかかれば、できなくないんだろう。


「侍女達に色々教わったからな、それでユーリはどんなのがいい?」
「え?じゃあヴォルフ作ってくれんの!?」
「も、もちろんだ!・・ぼ、僕の手作りだぞ?嬉しいか?」


「すっげえ嬉しい!!」
そう言ってまたカバっと抱え込むようにして抱きしめる。
ヴォルフもその回答に満足そうだ。


「そうだな、では去年はチョコほんじゅ?というものだったし
 今年はもう少し凝った物でもいいぞ!」


楽しそうにわくわくといった感じで見上げてくるヴォルフは頭の中は俺にあげるチョコでいっぱいみたいだ。
それはそれで可愛いんだけど。


向こうに行ってたのもあって、しばらくお預けだった俺は、もう我慢の限界。


よっと、ヴォルフを抱き上げるとそのままベットに運ぶ。


いきなり抱え上げられたヴォルフは、何を!?と身じろいだが
すぐにベットに下ろすと、シュッと頬にさらに赤みが走った。
俺に何されるか瞬時に理解した顔だ。


「ね、ヴォルフ。」
そのまま追いかぶさるように顔を近づける。
「な、なんだっ。」
あーあ。視線を不自然にそらしながら、真っ赤になっちゃって。 「俺、チョコより先に食べたいものがあるんだけど。」

「・・・・っ」

「・・・嫌?」
唇を触れそうなくらいまで近づける。
「・・・嫌なわけないだろうっ。」
そう言って唇を合わせてきたヴォルフの腕が俺の首にするりと回された。

そのままベットに二人で倒れこむ。





今は。





チョコよりも甘い君を。先に。











END