『ユーリー!ヴォルフラム〜!』

『おかえりグレタ!』

『どうだ?向こうでの生活は。』

『うん、色んなことを教えてもらったよ。ユーリとヴォルフに話したいことたーくさんあるの!』


『そうか、せっかく帰って来たんだ。ゆっくりしていけよ。』

『うん!・・・・あ、そうだ。これ二人にお土産。』

『これは・・?』

『カヴァルケードでみつけたの。何でも、幸せを運んでくれる魔法の時計なんだって。』

『・・これは。綺麗なデザインだな。』

『でしょ?ヴォルフならそう言ってくれると思ってた。』

『ありがと!グレタ!すっげー嬉しいよ大事にするな。』


『うん!』


そう言って、俺とヴォルフはその時計を大切に部屋に飾った。


『そうだ!明日はグレタも連れてお忍びで城下に遊びに行こうぜ!
 俺達こんな素敵な物貰ったんだ。なんかお返ししたいよな?ヴォルフラム。』

『ああ、・・だが、その前にお前が執務をちゃんと終わらせないと、兄上達に
 きっと許可を頂けないぞ?』

『・・・うっ・・。』

『が、がんばります・・。』

『うむ。せっかくグレタが帰って来たんだ。あまり僕達を退屈させるようなことが
 ないようにな。』

『分かってるって。じゃあヴォルフも手伝ってくれよ〜。』

『もちろんだ!』

『じゃあグレタ、アニシナのとこに行って来るね〜』

『ああ。』





これがほんの少し前の俺の記憶。

そうだ、約束どうり次の日執務を頑張った俺はグレタとヴォルフと、たまたまその時一緒にいた村田と4人で城下にいったんだ。

その時ふっと聞こえたグレタの声

「あ〜あ、早くユーリもヴォルフも結婚すればいいのに。」

ヴォルフラムはそれに笑って答えていたが、俺は一人俯いて困るだけだった。

「おや?渋谷、グレタ姫は君たちの結婚を今にも待ちわびてるみたいだね?」

隣にいた村田がクスッと耳打ちしてくる。

「なんだよ村田までー。俺はまだ結婚する気なんて・・。」

「ふ〜ん?・・まだ・・。ねぇ?」

ム。


「な、なんだよ・・。」

「まあ、いいんじゃない?きっと彼なら、そうだね。いつまでも君を待ち続けてくれるだろうし?」

「・・どういう意味・・・。」

「言葉通りの意味だけど?」

「・・・・・。」


待ち続ける________





『ユーリ。』


ユーリ


ユーリ!


いつまで・・・?


「ユーリ?おいどうした?お前も早くこっちに来い。」

「・・・・・うん。」


なあ、ヴォルフ。

お前はいつまで・・。


いつまで俺のこと待ってくれる・・・?


俺をいつまで、こうして甘やかしてくれる・・?


いつまで、側に・・。


好きでいてくれるんだ・・?


なあ、ヴォルフラム・・・っ。





あれ・・?タイムリミットって


いつだっけ・・・?








虹色時計_______3






「渋谷、もう向こうには行かないつもりかい?」





村田が俺に尋ねる。
最近はいつもこうだ。
村田が聞き、俺はその答えを受け流す。

だって、どうしろって言うんだ。


行く・・

向こうへ・・?
眞魔国に行けって言うのか・・?

アイツに


眞魔国に行ったらアイツに・・。ヴォルフに・・。

「俺は・・・。」


「渋谷、君はあの国の王だということを忘れてはならない。」


「・・・っだから・・俺は王様になりたいだなんて・・。」

そうだ、なりたいなんて一言も言ったことも、思ったことすらなかった。


「じゃあ、もう投げ出す・・?そうやってこっちにずっと篭って王様業なんて忘れて
 一高校生として過ごしていくかい・・?」

「村田まで、そんなこと言うのかよ。」

俺に押し付けるのか、その任務を所詮これが運命だと受け入れろと・・?

「違う、そうじゃない。・・だけど向こうでは皆が君を待っている。
 フォンビーレフェルト卿だって」

そこまで言われて俺の中の何かが切れた。


「やめろ・・!」


「・・・・・。」


分かってる、分かってるんだ。

アイツが俺を待ってることだって、皆が俺のこと心配してくれてることだって。


みんな・・・。





「・・・・。」


ヴォルフに会うのが怖い。

次会ったら、自分は何を言ってしまうのか


ヴォルフが何を言うのか、ただ受け入れるのか、言われるのか

もう考えることすら俺には面倒だった。


「分かんねえよ、村田。・・・俺は・・っ俺はただああしていられれば良かったんだ。」


俺が馬鹿やって、アイツが怒鳴って、
俺のやること行くとこに全部付いて来てくれて

一緒にいらればそれで、良かった・・。はずなんだ・・・。


決着を望んでいたのはあいつだ。


ヴォルフだったはずだろ・・?

それで何故俺が攻められる。





ああ、そうだ。


俺が、壊した。


お前が望む結末を・・。


壊したのは俺だ。


俺がこの関係に亀裂を入れた。


あいつの信頼を・・。期待を裏切った・・?


・・・だったら、あいつが言ってた決着って何だったんだ。
俺の関係に決着をつけたいと言うなら

答えは簡単だ。


婚約破棄


または正式な婚約、もしくは結婚。 どちらかなはず、だろ・・・?

この馬鹿みたいな婚約ごっこが
仮で作られた関係だというのなら、この曖昧な俺達に正式な決着というのは

そういうことだったのではないのか、


ヴォルフは俺に何を望んでた・・?








___________________





「猊下、陛下はご一緒ではないのですか・・?」

「ああ・・。」


渋谷が戻って来なくなって以来、こちらでは既に半年以上もの月日が流れていた。僕はフォンクライスト卿からタオルを貰うと
不安そうにみつめるエメラルドグリーンの瞳を見返した。


「まだ、魔力が回復しないのか?」

「たぶん、もうそれは大丈夫。あとは、渋谷の気持ちの問題だ。」

「・・・・・。」


君が気にすることはない。そう一言いって、僕は彼らと共に血盟城に向かった。





「少し話があるんだ。今いいかな?」

血盟城につき、早々に執務室に向かうと
そこにはギュンター、コンラート、グエンダルが集まっていた。

僕も同席したい、とヴォルフラムは願い出たが、それはあっさりと断られ、部屋に入ることは叶わなかった。

しかしそのまま食い下がる気にもなれず、扉の前からそっと耳を立てる。

ユーリはどうしてる?ユーリに何があった?いったい何をしている?・・どうして、戻って来ないんだ。

聞きたくても声には出せない。

扉の向こうでかすかに聞こえる声に、そっと耳をすませた。


「それで、陛下はどうされたのですか?」

すっと前に出てフォンクライスト卿が問いかける。


「向こうにいるよ。元気、がいいとは言い切れないけど、まあ普通に学校生活を送ってるってとこかな。」

「そう、ですか・・。陛下はもうこちらには戻ってこないつもりなのでしょうか・・?」

「分からない、けどこの国が嫌いになったとか別にそういうわけじゃないと思うんだ。」

眉間のしわをさらに寄せ、グエンダルが低い声を出した。

「戻ってくる気がないのか・・・?」

そう、睨まないでよ。苦笑いで返しても彼の眉間のしわは消えない。


村田はちら、と扉の向こうを見ると、視線を戻し、静かに声を発した。

「・・・・彼に・・フォンビーレフェルト卿に会うのが怖いと、
会ったらどう、接していいか分からないと
 そう、言っていた。」

「ヴォルフラムに・・?」


____カタン。


そこまで聞いて、僕は無意識にその場を離れた。

とても聞いていられなかった。

ユーリが僕のせいでこちらに戻ってきたくないだと・・?

僕に会いたくないからこちらには戻ってこないだと・・?

ユーリは・・・僕のせいで・・・?


力強く発せられる足音だけが、長い回廊を響き渡った。


そんな・・そんな無責任なこと、王が許されるものか・・!


_________


「しーぶや、今日さー。放課後お前ひま?
 他のクラスの女子とかもいるんだけど皆で遊び行こうぜ。」


「えー、なにそれ。俺いいよ、別に。」

「なんでだよー!お前いっつも彼女ほしーとか言ってたじゃん。」

「あれだぜ、隣のクラスの超美人な女子とかも来るんだからさ、お前もぜってー来といた方がいいって。
 今のうちに女子と交流しておけば可愛い彼女の一人や二人できるかもしれないし。」

「う〜ん・・。まあ・・。」

「なんだよ、今日用事でもあんの?」

「そういうわけじゃ・・。悪いけど他のやつ誘ってよ、俺今日はもう帰るから。」


あーなんだよー渋谷のやつー。

最近アイツのりわりーの。


俺はそんな声を背中に聞きながら、学校を後にした。


なんだろう、確かに彼女は欲しかった。
16年間ずっと彼女なんていなかったし、正直、他の友達とかの のろけ話を聞いては、へー。って完全に他人事。

野球にばっかかけた人生は女っ気は何一つない。

向こうの眞魔国に行って突然王になれ、とか言われたかと思えば
いきなり、男と婚約。俺を囲むのは・・いっつもお綺麗な美形魔族の方々。
そりゃあ、ツェリ様やアニシナさんやギーゼラさんみたいに女の人も少しはいるけど
結局は男連中ばっかりだ。

人生そんなもん?とか思うけど、でもけして俺は男と付き合いたいなんて一度も思ったことなんてなかったし
そりゃあ、ヴォルフのことは好きだし、好きだけど、でも・・。
付き合うってなったらやっぱ、違う・・?だろ・・?

一緒にいて欲しいけど、・・・・。

わかん、ないな・・。

アイツ以上に傍にいて欲しい相手なんて、俺にはいないんだ。





___________





「ユーリ、戻って来ないのかなー・・。」
魔王部屋に入ると先客がいた。
可愛らしい愛娘は足をぶらぶらさせながら、ベットに腰掛、暗い表情を浮かべている。


なんとかしてあげたい。そう思うといてもたっても居られなかった。
すぐベットに近寄り隣に座ると肩を抱き寄せた。

「大丈夫だ。あのへなちょこがグレタを放っておくはずがない、きっと戻ってくる。」

「・・・うん。」

グレタが頭をことんと傾けてきた。

「あのね、グレタ、時計にお願いしてみようと思うの。ユーリが早く帰って来ますように。って」

「願い・・・?」


そういえば以前・・。


『ねえ?ヴォルフ知ってる?この時計にはね、願いを叶えてくれる魔法がかけられてるんだって。
 今はほら、灰色の色をしてるでしょ?この時計が見込んだ願いの持ち主が現れた時、この時計は虹色に輝き
 持ち主の願いを叶えるんだって。ね・・?素敵でしょ?』


グレタがたっとベットを降り、部屋の棚に置かれている時計をとって見せた。それは以前僕らが彼女からもらったものだ。

それを持って僕に差し出したグレタはにっこりと笑った。


「今はただの銀色だけど、これが虹色に光るんだって!そんな日がホントに来るのかな?
 そしたら、ユーリ戻って来るのかな?ヴォルフも何かお願いしてみない?叶うかもしれないよ!
 ね、ヴォルフ楽しみだね!」

「・・ああ。」


そう明るく話すグレタにぼくもつられて微笑んだ。

グレタを元気付けるつもりが、逆に元気付けられてしまった。
自然と笑みが漏れ幸せな気持ちになる。





願いを叶える・・か・・。





願い。





『ヴォルフ、お前は俺とどうしたい・・?どうなりたいんだよ・・。』





どうなりたい・・?

ユーリにそう、問われた時になんと答えればいいのか分からなかった。





このままでいたい。

きっと自分はそう思っていた。

けどユーリがもしそれを望んでいなかったら・・?
僕は何も言い返すことなど、できなかった。


婚約はこのまましていたし、何より、ユーリの傍にいつもいたかった。
できれば安心したいし、正式な婚姻を結んでもらえたら、どれほど嬉しいだろう。

偽りの婚約者ではなく、正式な婚約者に。


僕の望み。

そんなんなのはただ一つだけ、ユーリの傍にいることだ。
しかしもしユーリがそれを望んでいないのなら
僕を疎ましく思うのであれば、自分は身を引かなくてならないことも、心の奥底では分かってはいた。

そう、魔王の願いを叶えることが、僕の、願いだ。


ユーリが僕に会いたくないという理由で眞魔国に戻って来れないなど、あってはならないんだ。





____________





グレタが部屋から出ていき魔王部屋に一人になると僕は近くの壁に背中を預けるようにして寄りかかった。


「ユーリ・・・。」


そう、そうなんだ。


これは僕の我侭なんだ。

今まで一緒にいれたのも、一緒の部屋で過ごせたのも、婚約者でいれたことも
全て僕の一人よがりだったのだ。ユーリは何一つ望んでなどいなかった。


「もう、潮時なのかもしれないな・・。」


僕はそっと、顔に手をあてた。


ずっと気づいてたじゃないか。


何を怖がっているんだ。気づかないふりをしていただけで、そう僕は・・。


分かってる、分かってる。


もう、これで全て終わりにするんだと、最初からなかったことにするのだと。


ああ、でも怖い。

立っている足から力が抜けそうになるのを支えるだけで精一杯だ。


失う。


自分の場所を・・? 違う・・。

では、ユーリを・・?

違う。ユーリは失うわけじゃない。

けど、もう自分はユーリの一番ではいられない、傍にもきっと


自分ではない他の誰かがユーリの傍に立つ
ユーリに愛され、いつもユーリの一番でありつづける存在。


そんな姿を自分はずっと傍で見続けなければならないのか、

ユーリの視線があの眩しいくらいの笑顔も


自分ではなく、他の誰かにそそがれるのを、僕はずっと・・。


いやだ・・・。


いやだ・・・、そんなの・。

見ていたくない。


けど、それはただの僕のわがままで・・。


分かってる、分かってる


何でも言い聞かせる。


大丈夫だと。


何が大丈夫なのか自分でもよくわからないが、きっと自分は耐えられる。


最初は慣れないだけで


辛く、苦しく感じるだけなんだ。


きっと、そう・・。





そう、なんだ。
だから今の僕にできることは、ただ一つ。





___________





「おーい、渋谷ー。お前今日も行かねえの?」


「あー。悪い、ちょっとお袋に買い物頼まれててさ。じゃあまた明日な〜。」





「アイツってあんなに付き合い悪いっけ?」

「なんか最近ぼーっとしてるよな。あれか?彼女に振られたとか?」

「まっさかー女っ気まったく感じねえじゃん。」

「ま、それもそうだな。ハハッ」





女っ気ねえ。確かにないよ。こっちでも向こうでも。
俺の周りに集まるのは何故か皆、野郎ばっかなんだ。

まあ女の子と二人っきりにされたところで俺には何を話していいかなんて分からない。
上目づかいに恥ずかしそうに名前を呼ばれたところで、

きっと、アイツの方が可愛い。


こちらのアイドルとかすっげー可愛い女の子がいたとしても
ヴォルフには叶わない。

ヴォルフが一番可愛い。


あんなキラキラして、純情で皆が構いたくなる、真っ白な天使は
きっとこっちにはいない。

そこまで思って、ふと気づく。


あーーー。。
何言ってるんだ、俺。
アイツは男なんだよ。
女より男の方が可愛いって、なんだよ。
確かにヴォルフは可愛いよ。あんなキラキラな天使今までに見たこともない。
強気で、わがままで、まっすぐで、なんで・・。

なんで、俺のことなんかいっつも追いかけて・・。


「・・・・・・。」


そう、ユーリが顔を上げた時だった。


視界の片隅に輝く金色が見えた。

見間違えるはずがない。

今までにだって何度だってみた。俺を背にあの細いのに可憐な身体で何度も守られた。

俺の、向こうでの婚約者。


「・・・ヴォル、フラム・・・?」


「ユーリ。」


「お、まえ何で・・。」

近づいてみると、ふと違和感に気づいた。
ヴォルフは確かにそこにいるのに、そこにヴォルフの実体はなかった。

「な・・っお前・・え・・!?なんだよ・・どういうことだよ・・!」

よーく見ると薄っすらと透き通ってるのが分かる。

「な、なにお前まさか・・幽体離脱でもしてきたわけ!?何でこっちにいんだよ!
 なんだよその姿・・!」

俺がぱにっくに陥って声をあげると、ヴォルフはフッと視線を下にやり、胸元に手を充てた。


「どうやら・・・”あれ”は僕の願いを叶えてくれたのかもな・・。」

「え・・・?」

どういうことだ・・?と聞き返そうとした時ヴォルフの真っ直ぐな迷いのない瞳にそっと見つめられた。
俺は戸惑ったように視線を返すことしかできない。

が、やはり耐え切れずすぐに目を逸らしてしまった。





「ユーリ、・・・・の、へなちょこめーー!!!」

「な・・・っ。」

いきなり何を言われるかと思えば、第一声に漏れた声はいつもの決まり文句と怒鳴り声。これには俺も拍子抜けだ。

「いきなりそれかよ!」

「へなちょこをへなちょこと言ったんだっこの馬鹿っ!王が何ヶ月も国を空けてどうする!?
 もう向こうでは半年以上の月日が流れているのだぞっ!!お前一人の我侭のせいで兄上やギュンター、城の者たちが
 どれほど振り回されていると思う!さっさと戻って来い!このへなちょこっっ!!」

う・・返す言葉もないとはこのことだ。
言われた言葉は全て事実で、俺には否定できる理由も統べもない。

「・・・・・。・・・その、ヴォルフ・・俺は・・。」


そうだ、誤るなら今がチャンスじゃないか、

『俺が、悪かった。・・ごめん。』

その一言を言えばすべてすむ話かもしれないじゃないか。
こうしてこいつが、俺を迎えに来たってことは、なんとか愛想はつかされていないようだ。

俺が悪いんだ、そう、こいつは全部押し付けられて・・・。


「ユーリ、・・・分かってる。もういいんだ。分かった。」

「・・・え・・?」

その時ヴォルフが笑った。

泣きそうにとても悲しそうに。その顔さえ綺麗だと思ってしまう俺はなんて残酷だろう。


「お前が、戻って来れなかったのは・・僕に会いたくなかったからなのだろう・・?」


「・・ちが・・・!」

すぐに否定しようと顔を上げたが、違う。とはっきりと言う事もできなかった。
100%違うとも言い切れない、そう、俺はヴォルフと会うのが怖かった。
どんな顔をしていいかも分からなかった。あんなふうな別れ方をした後で、次こいつにどんな言葉をかけていいか
どんな言葉を言われるのかと、正直びくびくしていたのは本当だった。

その俺の戸惑う表情を見てヴォルフは辛そうに視線を下げた。

「・・・もう、いいんだ、ユーリ。お前が悩む必要など、もう何一つないんだ。」

「え・・?」

「僕は、お前の望み通り、消えてやる。」

「は・・・!?何言って・・っ」

「ビーレフェルトに戻る。ビーレフェルトに戻って、叔父上の後を継ぎ、十貴族の一員として
 お前とこの国を支え、尽くしていくことを、・・陛下に、誓い申し上げます。」


「ヴォルフ、なんだよ・・急に・・。」

「叔父上は、前から僕にビーレフェルトを継いで欲しかったようだからな。お前が血盟城に就任してからは
 あまり戻らなくなっていたが、いい機会だ。僕は血盟城を出る。」

「・・・・・・。」


「これで・・お前は、もう僕に会わなくてすむぞ。安心して戻って来い。」


なんで、そんなこと

そんな風に笑って言えるんだよお前・・。

俺の傍にいてくれるんじゃなかったのか・・?

俺の傍にいたいんじゃなかったのか・・?

俺のこと好きなんじゃなかったのかよ・・っ


「ヴォル・・っ」「最後に、陛下にお会いできて良かった。」

「・・・・。」

「向こうに戻れば、この事は全て解決してる。お前が悩む必要は何一つないぞ。・・お前がやりたいように・・。
 もちろん無茶をするようなら兄上達が止めるだろうが、お前が望むようにあの国を動かせばいい。
 ・・・私は、傍を離れますが、ずっと陛下を・・。」

「ヴォルフ・・!!」


そのあまりにも辛そうな表情に俺は思わずその場を駆け出した。

触れたいと、慰めてやりたい、と

あの時は勇気を出せなかったその右腕が、ヴォルフラムに触れようとした時、そのままふわっと
ヴォルフは風の中に消えていった。

「ヴォルフ・・・!!ヴォルフラムーーーーー!!」


俺がかけよって、抱きしめようとした彼の姿は、もうここにはない。








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