夕暮れの人が行き混じる中でユーリは必死にヴォルフラムを探し続けた。

いつの間にか息も切れ切れになり、ユーリは近くの壁に手をつき、
はあはあと乱れた呼吸をなんとか整えようと息を吐き出す。



行けるとこはすべて行った。

色んな人に金髪の外人の子見なかったか、聞きまわり

それでも、未だに何の手がかりもない。

本当に、どこ、行ったんだよ・・・・ヴォルフっ・・・。

もう一度、探すために走り出そうと、流れる汗を拭ったとこだった。



「___あれ?渋谷じゃん。どうしたの?」

ユーリの知った声が降りかかる。

「・・・?」

声のした方に振り向けば、そこに立っていたのはユーリのクラスメイトだった。

はあ、はあ・・・。

「へ?何そんなに汗だく?今冬だよね?まあ秋の終わりって言うか、
 ロードワークでもしてたの?ご苦労様。」

俺の姿を見てだろう。茶髪をなびかせた彼女はそう言った。

「ヴォ、ヴォルフっ・・!ヴォルフ知らねえ!?」

「はあ!?・・ヴォル?だれ?外国人・・?」

「え、あ、そっか・・・。そう、金髪で、碧目の」

「あー!何もしかして前振られた彼女とか・・!?」

うっそー外人!?と驚く反応からして、ヴォルフを見かけたわけではないのだろう。



俺はすぐにその場返した。

「もし見かけたらすぐに連絡してくれ!頼む!」

うっそー。と叫ぶ声を背にしながら。





opportunity_______________4






母上、兄上・・コンラート。



日も落ち辺りが闇に染まった。

公園の電灯は僅かな光を放ち、そっと闇夜に浮かぶ彼を照らす。
中央に位置する噴水の前で淵に座り込んでいた彼は、天使のような見た目とは裏腹に暗い哀愁を漂わせていた。



もう、・・・会えないかも知れないなんて・・・・。



かすかに震える唇からやっと言葉を出せた時には、

『・・・教えてくれ、僕が何を・・・。何をしたって言うんだ!
 いきなり・・そんなっ・・・。僕が・・・。
 ・・・こちらに送ったのも眞王陛下なのか・・?』

同様のあまり声が途切れ途切れになった。



『さあ・・。彼は気まぐれだからね。もしかしたら、突然戻れるようになるかもしれないし。
 ・・・一生帰れないかもしれない。』

『・・・・・。』

『だけど、・・・これがどういう意味をもたらすか、君にも・・分かるだろ?』

大賢者が寂しそうな目をしてそっと笑う。



偉大なる眞王の言葉に背けるはずがない。

たとえ、ユーリや猊下の力を借りたって無理なのだ。

帰れたところでもはや、自分に居場所など・・・・。







「はあ、・・・はあ・・・。」



「何、・・してんだよ。・・ヴォルフ・・・。」



見慣れた、双黒。

地球では珍しくないと教えられたが、やはり彼の双黒は
他にはない輝きを放っていたように、自分には思う。



そう、彼だけが、特別、だったのだ。



肩で大きく息をしながら、膝に手をつき、ヴォルフラムの目の前に現れたのは



紛れもない、ユーリだった。



「・・・ユーリ・・・・。」

「お前・・なんで・・こんなとこ・・・。」

どれだけ走り回ったのだろう。いつもの朝のロードワークの20倍?30倍?

ずっと走った、探して、やっと・・・・。

「やっと、・・・見つけた・・・。ヴォルフ。」

その時そっと笑みが漏れたのは、安堵のためか、それとも



「帰ろう、・・・ヴォルフ。」

「・・・・・・。」

そっと差し出されたその手に

じわりと胸に何かが込み上げた。

帰る・・?どこへ・・?

もはや、自分に帰れる場所など・・・。

「・・・かえれ・・ない・・。」

「・・・え・?」

「帰れない・・。・・っ僕は・・」

「何、言って・・・帰れる、帰れるさ、ヴォルフ。俺が、送ってやるから。
 村田も・・戻って来たし・・。きっと!!」



「帰れないんだ・・・!!」

肩にかけようとした手を思いっきり振り払われる。

「ヴォルッ・・」

「眞王陛下に拒まれたんだっ、・・現にユーリの力でだってあちらに送り返すのは不可能だったろう・・?
 ・・・っ・・陛下に・・っ・・お前にも・・っ拒まれた以上、・・もう僕は・・っ」

くしゃっとヴォルフが顔を歪ませた。



陛下・・・って・・・?

お前って・・・

______俺?

俺がヴォルフを・・・。

「って、ヴォルフラムっ!!」

ヴォルフに近づいて見てから分かった。

「・・びしょ濡れじゃないか!!」

暗くて遠くからはよく分からなかったが、

彼は髪からもいく粒もの雫を垂らし、服もしっとりとはりついてしまっている。

慌てて自分の上着を脱ぎヴォルフに被せる。

身じろぎする彼を腕を引き抵抗できないように抱きしめて無理やり被せた。



何よりこの夜の寒さだ。

腕の中の身体は冷え切っていて、小刻みに震えている。

「ヴォルフっ、お前ばかっ!なんでこんな・・」

「・・・・っ・・。」



あ・・・・そうか・・・。

見ればここは最初に会った公園。

ユーリが倒れてるヴォルフをみつけた噴水だった。

「お前・・・まさか、ここから帰ろうとしたのか・・?
 それで、一人でこんなとこまで・・・。」



「帰れるかもと、思った・・んだっ・・僕は、一人で、ここに来たのだから
 きっと・・!一人でも・・・っ。だけど、無理だった。やはり、無理だったんだ・・!!」



ぎゅっと服を掴み叫ぶヴォルフのこんな姿を見るのは初めてだったかもしれない。





「・・・・ごめん。・・・・ごめんな・・ヴォルフ・・。」



違う、違うんだ・・・・。



「俺が・・お前に当たったりしたから・・・。」



俺が     ずっと、



伝えたくて、伝え切れなかった気持ちは・・・。



あんなことで、かき消せるはずなかったのに・・・。







「ユーリは・・・。嫌なのだろう・・?」

ヴォルフが、恐る恐る声を出す。

「僕が傍にいるのは・・。」



それだけは避けたかった。そうならなければいい、と何度も思った。

自分の存在が、意味が、自分にとって大好きなユーリを、苦しめるなど・・・。

「そんなこと、あるわけないだろっ!!」

ビクッとヴォルフが震える。

「そんなこと・・!あるわけねえのに・・っ・・。なんで・・っお前は・・・そうっ・・。」

勝手なことばかり・・・

今度はユーリがくしゃりと泣きそうな顔をする。



俺の気持ちも思いも、何もかも否定して、どうせ愛されてない。なんて思ってたのはお前じゃないのか・・?

俺がもう、男どおしと言わなくなったのも

自然と手を繋ぐようになったのも

寄り添って寝るのが当たり前になったのも

もう、随分前なのに・・・・。





「じゃあ、・・・じゃあ・・・・・ユーリは・・・・。





***********



「やあ、遅かったじゃないか。」

「村田・・・。」

「どうやら、決着はついたようだね。」

距離的に一人暮らしのはずの家に帰ると
にこやかに俺達二人を迎えたのはこの原因を作った張本人で。

「・・・どういうことなのか、後でたっぷり説明してもらうからな。」

じとっと睨みながら急いで家に上がる。

冷え切ったヴォルフを早く風呂で暖めてあげないと、本当に風邪を引いてしまう。

「ヴォルちゃん!!!心配したのよお!!やだびしょ濡れじゃない!早く暖めないと!」

その姿を見てユーリががっくりと肩を落とす。

「お袋もぐるかよ・・・。」

がばっとヴォルフに抱きつき、体が冷たいのが分かると腕を引き風呂場に引っ張って行った。



「やだなあ、ぐるだなんて、協力者って言ってあげなよ。」

お母さんでしょー。って言って来る村田は無視だ。

「なんだよ、こんなやり方。お前の案なのか?」

「まあ、半分正解。ほとんどは彼。だよ。僕だって最初は反対したさ。
 あまりにもフォンビーレフェルト卿が可愛そうでしょ?」

君にも拒まれるうえ、眞魔国にも帰れない状況に追い込むなんてさー。

俺が拒むこと前提だったのか・・・。

「・・・・。」

「けど、君がいつまで経っても答えを出さないから。
 少々強引なやり方も仕方ないかと思って。」

「・・・眞王・・・か・・・。」



で・・?



答えは出たの・・?





もちろん。







『じゃあ、・・・じゃあ・・・・・ユーリは・・・・。僕が・・好き・・か・・?』



あたりまえ、だろ・・・?

好きじゃなきゃ、こんなに探さない。

あんなに心配したりだって、きっとしなかった。



そう、   俺は   



  ヴォルフが



『        。』





*************





きゅっと光に飲み込まれる中で、握った手に力を込めた。



『なあ、向こうに帰ったら話があるって言ってたよな。』

『・・・ああ。』

『待って、着いたら俺からさせて』

『・・?・・ユーリがどうしてもと言うなら。』

『そう、どうしても。』



ニコッと笑みと一緒に手を握れば、不思議そうな顔をちょっぴり赤くしながら
俺の婚約者は微笑んだ。



そう帰ったら。


一番に抱きしめて。


手を握って。


伝えるんだ。



俺の、最愛の気持ちを、



お前が俺を愛してくれた分



待ち続けてくれた分



俺の精一杯の気持ちを込めて、君に伝えよう。







俺と、結婚して下さい。





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終わりましたーーー!!。
なんかぐたぐた進めてしまって、すみません・・^^;
とりあえずこれを書き始めたきっかけは、ヴォルフを閉じ込める陛下が書きたかったので、 あと気持ちをぶつけ合うシーン。
あんな始まりですが、私はユーリは高校の間には自覚して両思いになってくれると思ってるので
これは特別なパターンです。私の中では。
なんか伝えたかったこと、とかが少しでも皆様に伝わってればと思います!
ユヴォは両思いになるまでに色々すれ違いがある方が、両思いになった時にすごく幸せになれる気がするんですよね。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました!

2011 3/30