ただならぬ気配を感じたとたん俺達は身を寄せ合った。

たとえ何があってもどんなことが起こっても
こいつだけは
ヴォルフは、絶対に



渡さない。



そんな強い意志がユーリの瞳に強く、込められていた。








水中華_______________7






聞こえてきたその声に俺達…いや、その場に居た全員が目を見張った。

信じられないと・・・。

「その必要はありませんよ。閣下。」



そんな。



まさか・・・。



この声は。



「「・・・!?・・・ヨザック・・・!?」」


大きな岩の間から影を覗かせた彼はオレンジ色の髪をなびかせ
前と変わらないたくましい笑みを浮かべていた。

「ええ。無事で何よりです。・・・陛下。」

「な、・・・お前・・・。」

あの時別れた。

もう死んだと言われた、彼が・・・。



今、目の前に・・。


俺なんかよりよっぽど危険な目にあったのに。

俺をかばって。・・・俺のために。

「ヨザック・・・っ・・。生きて・・・」

「はい。この通り。」

ヨザックは右手をあげ逞しく上腕二頭筋を振りかざした。

「・・・っ。良かったっ!・・良かったっヨザック・・!!
 俺っ。もうホントに・・・っ心配・・でっ。」

「・・・・ユーリ・・。」

ヴォルフを腕に抱いたままポロポロと涙を流すユーリを下から見つめる。

「ヨザック。良かったよ。本当に。君が無事で。」

「猊下。」

村田はヨザックによりぽんぽんとその肩を抱いた。

「だが、どうやって抜け出して来たんだ?あんなところから。」
「ええ、それが奴らが俺にかけていた法術が解けたと分かった途端、もう使い物にならないと判断されたのか
 牢に放り込まれましてね。・・・・それが偶然にも閣下の兵達と同じ牢屋だったんです。」

閣下の兵。 その言葉にヴォルフラムがピクリと反応した。

「・・・ヴォルフ?」

「・・・あ・・・。」

またカタカタと震えだした身体を抱きしめる。
もう怖いものなんてないんだ。皆無事だったんだ。
もう大丈夫だから。心配するな。

そう言ってやれないのがひどく悔しかった。

まだ、こいつに掛けられた呪は溶けていない。

皆で、無事に。

眞魔国に。

帰りたい、だけなのに。

・・・なんで、

こう

なっちまうんだろうな。

「・・・それで?他の兵は?」
ヴォルフを気遣ってだろう。村田は俺達には聞こえないようにヨザックに耳打ちした。

ヴォルフを見れば聞きたくない、聞きたくない。とでも言うように俺にしがみついてくる。
だがヨザックはその返答にニカっと笑みを浮かべ、俺達にも聞こえるように大きな声でその言葉を発した。



「無事です。全員!」



「な・・っ!?」

その言葉に一番驚いたのは他でもないヴォルフラムだった。

「・・・ば、かな・・。
 ・・・・っ・・だって確かに彼らは殺され・・っ!!」

「・・・その兵、どんな姿でした・・?」

「・・え。」

兵の姿。・・・・確かに自分ははっきりとは見ていない。
頭を何度か殴られたショックで視界にはぼんやりとシルエットが滲み見えていただけだ。

「・・・・俺ですよ。・・あれ。」

「なっっ・・・!!」

俺だったんです。そう答えるヨザックに、ヴォルフはただ唖然と見返していた。

「牢に入れられて、しばらく経った頃だったか。・・・奴らが一人兵を連れて来い。と・・。
 誰でもいいから一人。・・・・嫌な予感がしたんで、俺が名乗り出たんです。」

「だったら、なぜ、・・生きてるんだ・・?」
ヴォルフラムの声は奮えていた。
「・・・・これ、何だと思います?」

ちらっと掲げてみたそれは、赤い液体が入った透明な袋で。



「まさか・・血のり・・かい・・?」

村田が後ろから呆気からんとヨザックに問いかけた。

「ええ。・・・こういう時の俺の必需品です。」

良くできてるでしょー。と見せびらかす姿に村田が呆れたように、それでもやはり嬉しそうに、笑っていた。



「・・・なっ・・だったらっ・・何でっ・・っ僕がどれだけ・・っ!」

「敵を騙すにはまず味方からって言うでしょ。いいじゃないですか、皆無事だったんですから。」

ね?っとヨザックが崖の後ろを振り向くと、数名の兵たちが現れた。

ヴォルフラムと一緒だった隊の者たちだ。



「「閣下・・!」」「「閣下っ。」」
出てきた彼らはすぐに、ユーリに抱きかかえられてるヴォルフラムに近づくと涙ながらに、喜んだ。
「無事でよかったです。」「申し訳ありませんでした。われ等の力不足で」
と訴える兵たちにヴォルフラムも涙ぐんで答える。



「お前達・・本当に無事、だったのか・・。・・良かった、本当に。・・っ。
 謝らなければならないのは僕のほうだ。・・・すまない危険な目に。」

いいえっ!そんな!閣下がお気になさることは・・!

押し問答を繰り返す彼らにユーリは嬉しい気持ちと幸せな気持ちでいっぱいになった。

ヴォルフラム、俺、嬉しいよ。

お前がこんなにたくさんの人たちに愛されて。

皆がお前のこと心配して、ここまで付いて来てくれたんだ。

お前も、誰よりも仲間の心配して。誰よりも、命がけで戦って。

・・・・そんなお前が、俺こと好きでいてくれて。

・・・今まで傍にいてくれたことが、すごく、嬉しかった・・・・。







「・・ユーリ・・?」

自分の身体に、ゆっくりと、少しづつ重みが加えられていることに気づいたヴォルフラムは
自分を抱きしめているユーリに違和感を覚え、声をかけた。

「・・どうした・・?ゆー・・。」

そのまま顔を望み込もうと身体を少し放そうとした時だった。
ユーリの身体が横に傾き、ズサっと地面に倒れこんだのだ。



______________。

「陛下・・・!?」「どうされたのです!?」

すぐに回りの兵たちが集まりユーリに声をかける。

「渋谷・・!」「坊ちゃん!」

村田やヨザックもかけより様態を見れば、ユーリの額にはうっすらと汗が浮かび上がり
呼吸は落ち着いてるものの、その身体に意識はなかった。

・・・あっ・・。

「ユーリ・・。・・・っ・・ユーリっっ!!」

「落ち着いてフォンビーレフェルト卿!・・大丈夫、・・・魔力を・・使いすぎただけだから!」

「だってっっ!ユーリがっ!・・っユーリ!ユーリ・・!!」

取り乱すヴォルフラムを村田が必死に止める。

「陛下は俺が・・。」
と抱き上げ運ぼうとしたヨザックを、後ろから肩にぽんと手を置き止めた人物がいた。

「ギュンター・・。」

「無事で、何よりです。・・貴方もこれ以上無理しては倒れますよ。
 ・・・腹の傷、癒えてないのでしょう?」

「お気づきでしたか。・・・っさすが。」
「奴らを・・血のりだけで騙せるはずありませんからね。陛下はまかせて
 貴方もすぐ手当てなさい。」

案ずるように優しく微笑んでくれた王佐に、自分に剣技や武術を教えてくれたのは
この人なのが誇りに思った。










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すみません、色々迷ったのですが。4話の兵士は生きてるか死んでるかどうか。とか。
ヨザックはなんらかの形で登場はさせるつもりでした。
ただ、ヴォルフの心の負担が・・。そんなに弱い子ではないとは思うものの
自分のせいで仲間が死んだとかは。この先どんなにユーリと幸せになっても心残りになるかもしれない。と思ったので
こういう形にしました。ハッピーエンドを目指すためにも・・!ねっ。
ただね・・、血のりはないわ・!とか自分でも少し思いました;
でも他に案が思いつかない;;
なんかいいのあったら変えたいと思います;;

この先はもうしばらくは平和かと(笑)。ここまで読んでくださりありがとうございました!


2011 2/20